6年生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様におかれましても、ご子息・ご息女のご卒業おめでとうございます。
「希望の先へ」というテーマを知ったとき、私はふたつのことを思い出しました。一つはギリシャ神話の「パンドーラーの匣」という話です。この話について、最初に話します。
「パンドーラーの匣」は、ヘーシオドスというギリシャの詩人の、「仕事と日」という話に出てきます。大昔、人間たちは、火の神・プロメーテウスによって火を使うことを教えられました。人間たちの暮らしは火を使えるようになったことで豊かになりましたが、同時に、火を争い事に用いるようにもなりました。そこで、ギリシャ神話の主神・ゼウスは、人間たちを懲らしめるために、パンドーラーという女性に箱(これは本来は壺なのですが)を持たせて、人間界へと送り込みます。絶対に開けてはいけないと言われていたその箱を、パンドーラーは好奇心にかられてつい開けてしまいます。すると、中から疫病、犯罪、悲しみなどなど、ありとあらゆる災いが飛び出してきました。慌てたパンドーラーが箱を閉めた結果、箱の中には「希望」だけが残された、というお話です。
この神話が語っていることは、希望とは、何もかも失っても、その後に残っているものなのだということです。
さて、「希望の先へ」というテーマを知ったとき、もう一つ思い出したことは、エレミヤ書(旧約聖書)に出てくる次の言葉です。これから引用する聖書では、神さまが語っておられる言葉の引用ですから、「わたし」という言葉は、神さまご自身のことです。そして、「あなた」という言葉は、人類を指しますから、まさに、ここにいる私たちのことを指します。こんな言葉です。
「わたしは、あなたたちのために立てた計画をよく心に留めている、と主は言われる。それは平和の計画であって、災いの計画ではない。将来と希望を与えるものである」(聖エレミヤ書29章11節)。
神さまは私たち一人ひとりに、ユニークな個性と、ユニークな使命を与えてくださっています。これが神さまのご計画です。私たちにとって思い通りになったことも、思い通りにはならなかったことも、すべて神さまのご計画のうちにあります。しかも、そのご計画は、私たちに将来と希望を与えるものなのだと、ご計画を立てられた神さまご自身が語っておられます。それは人間には、一見、わからない、理解できないようなご計画かもしれない。だけれども、神さまは、そのご計画を実行されるにあたって、けっしてあなた一人で、それを実行させることをなさいません。神さまは、「恐れるな、わたしはあなたと共にいる」と言ってくださっています。私たちをけっして一人にはなさらない方です。もしも、あなたがたが、自分は一人ぼっちだと思ってしまったとき、このことを思い出してください。神さまはあなたとともにいてくださいます。先ほどのパンドーラーの匣の話のように、よいことが何ひとつなく、悲しみや困難が続いた後にも、希望が残る。それはちょうど、私たちが困難に遭ったとき、暗闇の中で光を見いだすことに似ています。実は、光は暗闇のだからこそ見えてきます。同じように神さまも、私たちに困難が続き、自分の周りから人々が去ってしまった後で、すっと、私たちの前に姿を現します。あなたが歩けなくなったときも、神さまはあなたを背負ってあなたの代わりに歩いてくださいます。
東星学園小学校を卒業する皆さん、ですから、安心して生きていってください。
「希望の先へ」。皆さん方の選んだテーマをヒントに話をしてみましたが、希望とは、その先も生きるためのものなのでしょう。皆さん方の真の人生は、あるいは、皆さん方の真の自分との出会いは、希望の先にあります。
皆さんが「希望の先へ」といつまでも歩んでいかれることをお祈りしています。
どうか、皆さん、お元気で。
2023年3月10日 東星学園小学校 校長 大矢正則