今年の学年はじめは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、異例の休校状態からスタートしました。この休校下にあって、私たち教員が考えたことは、休校中であっても学校として提供すべき内容を皆さん方に提供することでした。
学校にはいろいろな機能があります。授業、行事、部活、普段の友人同士の関わり、生徒と教師の関わり、進学などの情報の提供。安全に関する指導。これらは、学習指導と生活指導などという学校用語を用いて、大別することもできます。
さて、休校でスタートした新学期、私たち東星中高の教師陣が、何を置いても提供しようと考えたことは学習指導でした。具体的には、ロイロノートを使って代替授業をするということを、教員全体で取り組みました。先生方の中には、ロイロノートを既に使い慣れている者もおりましたが、多くの教員が、初めて取り組んだICTによる、オンデマンド型授業でした。専任の先生も、講師の先生も、必死に校内研修をし、なんと、4月13日から東星の中高では配信を始めています。これは全国の私立・公立学校でも、最も早い部類になります。そして、5月からの内容については、成績にも入れるということにし、いよいよ、本格的に全教員が一丸となって、在宅勤務でPCに向かい、先生によっては、動画を配信し、より、わかりやすい授業を配信しました。
これは、実は、皆さんに言うべきことではないかもしれませんが、普段と違う、ICTという方法を取って、授業の準備や採点をすることは教員にとっても大きな負担でした。それでも、東星の教師陣は、6月の授業再開まで、喜んで、ロイロノートを使った授業に取り組みました。再開後も、ロイロノートを効果的に用いている先生もいると聞きます。
実は、私たち教師陣が、これだけ頑張って、ICTによるリモート授業を実施できたのには、訳があります。
一つは、教員のチームワークです。この時期、わからないことはお互いに聞き合って、教員はチームとして授業に臨みました。チームで働くとは、自分がチーム内で何ができるかを考えるのと同時に、仲間がチーム内で何ができるかを発見し、認めることであります。皆さんにも、先生方のこのチームワークの良さを見習ってほしいと思いました。
さて、先生方がICTによるリモート授業を頑張れた第2の理由をお話しします。それは、何といっても、生徒の皆さんの頑張りを、ネットを介してですが、十分感じたからです。私も数学科の一教員として、ロイロノートによる授業には参加したのですが、皆さんから帰ってくる課題の頑張りには目を見張りました。皆さん方の中の多くの人は休校中も、学校が再開した後も、今年は勉強をよく頑張ったのではないでしょうか。それに応えるべく、先生方も頑張ったわけです。まさに、生徒あっての教員なのです。
ところで、あなたは何のために勉強をしていますか。人が勉強する価値は、少なくとも三つあります。
一つ目は、勉強したことそのものが役立つという価値です。たとえば、たくさん漢字を覚えれば、それだけ、読み書きが達者になるでしょうし、難しい本も読めるようになります。足し算、引き算、かけ算、割り算は、知っていれば、無意識のうちに使えるようになります。社会科で政治や経済を学べば、新聞を読んで理解できる部分が大幅に増えます。理科で力学を学べば、物を落とした時の衝撃を知ることができます。英語を知っていれば、外国人と簡単なコミュニケーションをとることができます。
二つ目は、勉強することで何か別のことが得られる場合です。たとえば、受験勉強がそうです。勉強することによって、『合格』という別の物が手に入ります。
さて、三つ目です。これが、なかなか説明が難しいのですが、実は勉強すること自体に価値があるのです。たとえば高校で学ぶ数学の大部分の公式は、特定の職業に就く人以外は、大人になったら忘れてしまっても不都合は感じません。それでも私は、数学を学ぶ価値があると思います。なぜならば、将来二度と使うことのない公式であっても、それを自分で再び作り出す(公式を「導く」といいます)過程で、それまでに知っている別の公式や法則や定理を取捨選択して使い、最終的に新しい公式を導いているからです。実はその経験が尊いのです。将来、役にたつかどうかわからないけれども、自分の頭を使って考えて新しい公式や事実を導く。中学校や高校では、主に数学や理科や社会で、そのような頭の使い方をします。国語では、文章や詩を読んで、人の心を理解する経験をします。英語では、文章理解を通して異文化体験をしているのです。これらの頭の使い方こそ、生きていくための知恵を生み出します。いまや、知識はインターネットでググればすぐに出てきますが、知恵は自分の頭の中以外のどこを探しても見つかりません。
特に受験勉強をがんばっている高3の皆さん。その勉強を受験勉強だと思わずに、今あげた三つ目の価値がある勉強だと考えてください。そして知恵のある人になってください。
それでは、8月29日の始業の日に、また、元気にお目にかかれることを楽しみにしています。
校長 大矢正則